ステンレス加工屋さんの総務部雑記帳 > ポットスチル(ウイスキーの蒸留釜)はなぜ銅製なのか? 加工性やメンテナンス性ならステンレスでは?

ポットスチル(ウイスキーの蒸留釜)はなぜ銅製なのか? 加工性やメンテナンス性ならステンレスでは?

サントリー「山崎」ウイスキー名前の由来、大阪府三島郡島本町山崎にはサントリー山崎蒸留所があります。ウイスキー醸造というと、熟成用の樽積みや銅製のポットスチルと呼ばれる蒸溜釜がイメージされます。

サントリー山崎醸造所のステンレスじゃなく銅製のポットスチル(蒸留釜)

発酵で出来上がったもろみ(発酵液)を蒸留するのですが蒸留釜。もろみを80℃まで熱してやるとアルコールや香りだけ気化するので、それを冷やして濃度65~70%のウイスキーの元(ニューポット)を作るそうです。(サントリーホームページより) 上↑の写真でポットスチルの上がポキッと折れ曲がってますが、その先で冷やして液体に戻します。

サントリー山崎醸造所のステンレスじゃなく銅製のポットスチル(蒸留釜)

このポットスチルは「銅製」であり、もっとメンテナンス性に優れてると思われる我らが「ステンレス」は使いません。
ここでミニQ&A
.銅で始まったウイスキー醸造だからガンコに踏襲? →A.No!大事な理由あり。(後述)
Q.銅って錆びたら有毒なんじゃ?そう習ったぜ!   →A.No!昭和人によくある大誤解です。(後述)
Q.ポットスチールっていうからホントは鉄なんじゃ? →A. No!SteelではなくStill。Distill(蒸留する)から来てるそう。

サントリー山崎醸造所のステンレスじゃなく銅製のポットスチル(蒸留釜)

ポットスチルが銅である理由:
糖を酵母がアルコールに変える(発酵)ときに生成される硫化物にあるそうです。硫化物というと難しそうですが、温泉街の硫黄臭(ウソ!硫黄は無臭で硫化水素の臭い)で卵の腐ったようなにおい、体内で発酵して下の方から出てくる例の・・・まあアレな匂いです。どのお酒でも発酵時に「硫化物」ができるそうなんです。

サントリー山崎醸造所のステンレスじゃなく銅製のポットスチル(蒸留釜)

日本酒では適度にその香りを残し楽しむようですけど、ウイスキーがそんな匂いがしたらちょっと嫌ですよね。さてこの硫化物の臭いを除去するのが銅だというのです。これがステンレス製ポットスチルなら、硫化物が抜けないので、清潔なんだけど発酵臭が残ったウイスキーができるらしいです。ウイスキーに限らず酒それぞれ硫化物の嫌な臭いを抑えるために、タンクの材質や製法を工夫したり硫化物の出にくい原料を使ったり・・・という工夫があるそうです。

サントリー山崎醸造所のステンレスじゃなく銅製のポットスチル(蒸留釜)

銅のサビ「緑青(ろくしょう)」を気にする人
さて、緑青はその名の通り独特の色を持ちますが、ステンレスの不動体皮膜と同じように銅表面を覆い銅を腐食から守ります。昭和までの教科書には「緑青は猛毒!」と誤った記述があり、古い人の中には「緑青が付く銅製ポットスチルでウイスキー?」と違和感を持つ方もおられるかも。でも現在は「緑青は無害に等しい」が常識。常識は「常」ではないのです。

サントリー山崎醸造所のステンレスじゃなく銅製のポットスチル(蒸留釜)

そう聞くと、画期的な硫化物除去技術が生まれたら、ウイスキーの醸造にステンレス製容器が一気に常識化する時がくるかもしれません。100%ステンレス製の醸造所! まあ、醸造所内でもステンレス配管は十分活躍していますので欲張りなのかもしれませんが。

: 2020/03/14

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